無料小説 ショコラと遠吠え

赤橋(しばらぶ)の小説置場

夢を見る  2

 

「いらっしゃいませー」

 

 店内に客はそれほど多くなく、平和な時間が流れていました。

 入って右側が書籍のコーナーで、左側がDVDなどのレンタルのコーナーになっています。

 何を見ようかと思った時、ぱっと目に飛び込んできた

 

「レンタルCD50%OFFセール」

 

という看板に釣られ、私はレンタルコーナーに足を運びました。

  最近あまり音楽聴いてなかったな、と思いつつ好きなアーティストのCDのコーナーを探しました。

 たしか半年くらい前に新しいアルバムが出ていたことを思い出し、探してみるも、貸し出し中なのか見つかりませんでした。

 少し残念に思いつつ、他に何かないかな、と店内を見まわしてみると、レンタルコーナーの一角に新譜のCDコーナーがあることに気づきました。

 そこにきれいに並べられたCDは、どれも盗難防止用のプラスチックケースに入れられており、どうやら販売用のもののようです。

 販売のCD売り場の一角には視聴用のプレーヤーとヘッドホンがあり、少し興味がわきました。

 買うつもりはありませんでしたが、聴くだけならと思って私はヘッドホンを着け、再生ボタンを押してみました。

 

 曲は、バラードでした。

 それも、ギター一本の弾き語りです。

 思わず鳥肌が立ちました。

 まるで彼が私の言葉を代弁してくれているかのように、歌詞が心にストンと落ちてきたのです。

 わたしは自分が聴いているCDのアーティスト名を探しました。

 

 Taupe(トープ)

 

 それが、彼の名前でした。

 

 たまにあるこういう感動に、私はめっぽう弱いのです。

 濃い灰色のそのCDを手に取ると、迷わずレジに向かいました。

 

 数日分の食費にと思っていた3000円をすっかり使い切ってしまったため、結局この日の夕飯は質素にせざるを得ませんでした。

 でもそのときは、そんなことよりも早くこのアルバムが聞きたいという気持ちでいっぱいだったのです。

 このCDを買った日から、私が彼のファンになるのに、それほど時間はかかりませんでした。

 むしろあの曲を聴いた瞬間から、もうファンになっていたのかもしれません。

 

 Taupe(トープ)は、弾き語りの歌手にしては珍しく、路上ライブどころか、顔出しすらしていませんでした。

 どうやらインターネット上にアップした曲が人気になったようです。

 Taupe(トープ)という名前と、声質から男性であること以外は、年齢も、出身も明かされていません。

 その謎に満ちた人物像が逆に人の興味を引くのでしょうか?

 ネットを介して、瞬く間にその名前は広がっていきました。

 

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